γ線スペクトル測定装置 筐体の違いによるスペクトルの変化

−高性能化への挑戦−

 チャージアンプは外部ノイズの影響をなくすため金属のケースに収めなければまともに動作しない。市販のアルミケースをネットで検索してもちょうど良い大きさのケースは見つからなかった。仕方がないのでホームセンターでアルミの四角柱を購入しケースとしてきた。3ccのシンチレータを使っている測定器NO.3は25mm×25mm,厚さ2mmのアルミの四角柱をケースとして,内部にセンサーとアンプを組み込んだ。しかし,鉛のブロックでバックグランドを遮蔽する箱を作り,その中で食品に含まれるセシウムを検出することを考えているので,若干大きすぎる。そこで,ケースをガラスエポキシの両面基盤を使って製作し直した。自由に大きさをきめられるメリットがある。また2mmのアルミより基盤より銅箔のほうが放射線を減衰させる量は少ないと考えられるので都合も良い。

 上の写真はプリント基板でケースを作ったNO.4の測定器である(NO.3も同様な構造)。回路がちょうど入る大きさのケースにした。作り方は至って簡単で,プリント基板を押しきりで裁断し,少し大きめのコテで半田付けして組み立てる。極めて短時間に組み立てられる。3mmのネジを切って蓋をネジ止めする写真のような構造にするとメンテナンスも容易である。そしてケースの材質によるスペクトルの変化を確認した。表1に今まで製作した測定器の諸元とさらに写真を以下に示す。

表1

シンチレータ体積 フォトダイオード 受光面積 その他
NO.1 1cc S6775×4 77mm 4個並列接続
NO.2 1cc S6775×1 26mm 4次ベッセルローパスフィルター付き
NO.3 3cc S3590-08 100mm  
NO.4 1cc S3590-08 100mm  
 左からNO.1〜NO.4の測定器の外形である。NO.3,NO.4は4芯シールド線でセンサー・アンプ部と電源を分離した。コネクターはビデオ用S端子コネクターとジャックを利用した。

 

○シンチレータの大きさ,フォトダイオード受光面積の大きさによる性能の違い

 4つの放射線測定器の特性を比較して何が性能を決めるのかを確認した。表2はバックグランドの計数率と,アンプのノイズレベルをNO.3,NO.4については改めて測定し,NO.1,2と比較した表である。

表2 バックグランドカウント アンプノイズレベル
NO.1 3.62cps(0.98) 105keV(10ch)
NO.2 3.48cps(0.95) 136keV( 8ch)
NO.3 10.2cps(2.78) 53keV(11ch)
NO.4 3.68cps(1.00) 49keV(12ch)
 表2から,シンチレータの断面積とフォトダイオードの受光面積が一致する場合が信号対ノイズの比率が大きくなることがネットで指摘されていたが,同じ結果が読み取れる。受光面積がシンチレータの断面積より小さければ,光りの一部しか電気信号に変換できないのでゲインが下がる。しかしノイズレベルは変化しないので,S/N比は悪化する。と考えることは正しいようだ。
表3 239keV以上の計数率 1600keV以上の計数率 2614keVピーク計数率
NO.1 60.1cps(1.10)

2.01cps(0.87)

0.14cps(0.74)
NO2 62.9cps(1.15) 2.03cps(0.88) 0.15cps(0.79)
NO3 88.5cps(1.62) 3.83cps(1.66) 0.32cps(1.68)
NO4 54.7cps(1.00) 2.31cps(1.00) 0.19cps(1.00)

 表3はランタン用マントル(3枚重なって入っているパッケージ)に測定器を立てて測定した(1時間の計数値)計数率をまとめた。マントルのパッケージに接する方向のシンチレータの面積は全ての測定器で1cmである。しかし体積3ccのシンチレータのNO.3の測定器は高さが3cmあるので,他の測定器よりは多くのγ線が入射すると考えられる。ただし体積比は3倍あるが,入射するγ線は3倍にはならない。 シンチレーターの体積に比例して計数率が高くなるはずで,表2を見るとバックグランドノイズの計数率では当てはまる(なおこの場合フォトダイオードの面積は無関係である)。しかし,マントルを計測した時の計数率を比較すると,必ずしもこの関係にはなっていない。この理由は,点状の放射線源から放出されるγ線を計測する場合,測定器を貫くγ線の数は,放射線源から見た測定器の立体角に比例するので,体積が3倍になったからといって,立体角が3倍になっていなければ計数率は3倍にはならない。そこでこの点を検証するために平面上に広がった放射線源を計測した。表4がNO.3,NO.4を使って得た計数率である。

表4 CS137 CS134
NO.3 27.5cps(2.62) 12.6cps(2.75)
NO.4 10.5cps(1.00) 4.59cps(1.00)

 この放射線源は以前お借りしたGM管方式の市販の測定器で6μSv/hと表示された汚染土である。ベクモニで10分間計測しコベル法でセシウムの計数率を測定した。線源はセシウム汚染度を10cm×10cmの密閉容器に入れて,ふたの上に測定器を横にして測定した。測定器の大きさと比較して,この程度の面積に分布した線源であっても密着させた場合,線源は広い平面上に一様に分布していると近似的に仮定できるだろう。  表4より,セシウムの計数率はシンチレータの体積比とほぼ同じ値になっていることが分かり,期待どおりの性能が出ていることが分かる。

○ケースによるスペクトルの違い

  1. 赤 アルミケース 縦置き
  2. 緑 アルミケース 横置き
  3. 青 ガラスエポキシ両面基板製ケース 縦置き
  4. 橙 ガラスエポキシ両面基板製ケース 横置き
 上のスペクトルはベクモニでNO.3の測定器を使って,ランタン用マントルを1時間計測したときのスペクトルである。アルミケース,ガラスエポキシ両面基板製ケースを試料に対して縦に置いて計測した場合(右の写真)と横に寝せて計測した場合のスペクトルを色分けして表示した。橙のスペクトルが若干計数率が高いが2.6MeVのピークはほとんど同じである。ただし赤い線で示した2mm厚の四角柱のケースで測定したスペクトルのみコンプトン散乱の計数率が高い。この場合2mm厚のアルミ四角柱の内壁でコンプトン散乱したγ線を計測していると考えられる。 このようにケースによって若干スペクトルの形が変化するようだ。はじめはγ線が遮蔽されて計数率が変化するのではと考えたが,そのような影響は少なく,コンプトン散乱したγ線を計数してスペクトルの形を変える影響があった。プリント基板の銅箔の厚さは35μm程度なのでかなり薄いので,測定結果に影響を与える可能性は少ないと言えるので,この材料で測定器の基板を製作することは悪くはないと思う。